大判例

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浦和地方裁判所 昭和24年(行)21号 判決

原告 並木伝三

被告 埼玉県知事

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、「原告が昭和二十三年八月二日別紙目録記載の農地について農地調整法第九条第三項の許可を求めた申請を、埼玉県知事が昭和二十四年一月二十四日附で許可しないものときめた決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として、

本件農地は原告の所有地であつて、原告はこれを訴外並木吉五郎に一時賃貸していたところ、昭和二十三年九月二十七日浦和簡易裁判所において同訴外人との間に、原告は同訴外人に昭和二十二年九月一日から昭和二十三年八月十五日まで右農地の小作を許し、その期間満了後直ちに明渡を受ける旨の即決和解(同庁昭和二十三年(イ)第一九号)が成立した。原告はこれより前片山村農地委員会の承認を得た上同年八月十三日同訴外人から右農地の明渡を受け以後自作しているものである。

これについて原告は農地調整法第九条第三項の規定に従い埼玉県知事に許可を申請したところ、当時の埼玉県知事西村実造は昭和二十四年一月二十四日附でこれを許可しないことを決定し、右決定に関する書面はその頃原告に送達された。然し前叙の通り裁判上の和解を経、地元農地委員会の承認を得、既に任意の返地を受けて自作しているのに許可しないのは知事がその裁量を誤つたもので違法であるから、原告は右決定の取消を求めるため本訴請求に及んだのである。なお、被告の主張するような買収令書の交付を受けた事実はこれを認めるが、右買収処分について原告は適法な異議及び訴願の手続を経て、昭和二十四年二月二十六日浦和地方裁判所にその取消の訴を提起し、右の訴は同裁判所同年(行)第二三号農地買収計画取消請求事件として現在同裁判所に係属中であるから被告の主張は理由がない。と述べた。(立証省略)

被告指定代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、本件農地については自作農創設特別措置法の規定に基く遡及買収の手続が進められ、埼玉県知事が買収の時期を昭和二十三年十二月三十一日と定めた昭和二十四年二月二十三日附の買収令書が原告に交付され、右買収時期において原告の本件農地の所有権は消滅したから、原告は本件取消を求める訴の利益を有しない。尤も原告主張の訴が浦和地方裁判所に係属していることはこれを認める。と述べ、

答弁として、原告主張の事実中、賃貸借が一時的のものであるとの点を否認し、その余の事実はすべてこれを認める。と述べた。(立証省略)

三、理  由

原告が本件取消を求める訴の利益を有するかどうかについて先ず判断をする。

本件農地について自作農創設特別措置法に基く遡及買収の手続が進められ、埼玉県知事が買収の時期を昭和二十三年十二月三十一日と定めた昭和二十四年二月二十三日附の買収令書が原告に交付せられたこと及びこれに対し原告が適法な異議訴願の手続を経て昭和二十四年二月二十六日当裁判所に取消の訴(当庁昭和二十四年(行)第二三号農地買収計画取消請求事件)を提起し、この訴が現に当裁判所に係属中であることはいずれも当事者間に争がない。

以上の事実から考えれば買収令書は既に原告に交付され、買収処分に対する不服の訴は目下係属中であつて未だ結論に達していないのだから、(たとえ不服の訴を提起しても、この行政処分はまだ取消されていないから、)原告の本件農地所有権は一応国に移り、従つて原告は今更本件農地の引上についての許可を求めても詮ないことのようにも思われ、原告はも早本件取消の訴の利益を有しないかのようにも見える。然しながらこの論によると原告が本件農地の返還を受けて自作しているという理由で買収処分の取消を求めようとすれば(前記別件判決参照)返地の許可がないと言われ、返地の許可を求めようとすれば買収処分が取消されてないから訴の利益がないと拒まれる場合も生じ得るのであつて、前記のような形式論理ばかりで押し切られることになれば、仮に返地許可申請を不当に拒否して買収手続を進めた場合があつたとしても訴による救済の途は閉ざされてしまうことになるのである。その結果の不当であることは多く説明するまでもない。特に現在原告は前記別件の訴訟とならんで本訴において返地不許可処分の取消を求めているのであるから、買収処分が取消されていないというだけの理由で本件取消の訴の利益がないと断定することはできないのである。

よつて進んで本訴請求の原因について判断をする。

本件農地が原告の所有であつたこと、昭和二十三年九月二十七日浦和簡易裁判所において原告と訴外並木吉五郎との間に「原告は同訴外人に対し昭和二十二年九月一日から昭和二十三年八月十五日まで本件農地の小作を許し、同訴外人は右期間満了後直ちに原告に対し本件農地を明渡す」旨の即決和解が成立したこと、原告が同年八月十三日同訴外人から本件農地の明渡しを受けて自作していること並に原告がその主張のような許可の申請をしたのに対し当時の埼玉県知事西村実造が昭和二十四年一月二十四日附で右申請を許可しないことに決定し、その決定を記載した書面がその頃原告に送達せられたことはいずれも当事者間に争がない。原告は右をもつて右訴外人に本件農地を一時賃貸したものであると主張するのであるが、前記和解条項の趣旨又は本件各証拠を考えても原告が右訴外人に本件農地を自創法の規定する意味において一時賃貸したものと認めることは困難である。そればかりではなく、前認定の即決和解は昭和二十三年九月二十七日即ち前示期間満了の日(同年八月十五日)より後に成立し、しかも右期間満了前である同年八月十三日には原告は既に右訴外人から本件農地の返還を受けているというのであつて、日の前後だけから見ても少からぬ矛盾を含み且右即決和解はその要件を欠くものと思われる。(右一時賃貸及び即決和解の点に関する理由の詳細については前示別件についての当裁判所の判決理由参照)また原告が前記訴外人から本件農地の返還を受けることについて片山村農地委員会が承認を与えたことは当事者間に争がないのであるが、当時右農地委員会は右のような承認を与える権限をもたなかつたのであり(この点についても前示別事件の判決理由参照)しかも自創法第四十七条等には県知事が村農地委員会より上級に位する趣旨があらわれているのであつて、下級の村農地委員会が承認した事実があるからといつて上級の県知事の不許可処分が不当であると推論することは順逆を誤まつたものであり、妥当ではない。

以上説明の通り原告の主張する事由によつて埼玉県知事の前示不許可決定が違法であると認めることはできないので、原告の本訴請求は理由がないものとしてこれを棄却する外はない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条の規定に則り主文のように判決したのである。

(裁判官 梶村敏樹 岡岩雄 立岡安正)

(目録省略)

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